第1562回「熊本地震 子どもの心のケア」
オンライン:熊本大学大学院 教授 大塚芳生さん

西村)7月28日に発生した熊本地震から1ヶ月以上が経ちました。避難所での生活や車中泊など、不自由な環境での生活にストレスを感じているのは、大人だけではありません。今、被災地では、子どもたちへの心のケアが必要とされています。
きょうは、10年前の熊本地震で子どもたちの心のケアにあたった熊本大学大学院 教授 大塚芳生さんにお話を聞きます。
 
大塚)よろしくお願いいたします。
 
西村)被災した子どもたちの心は今、どのような状態なのでしょうか。
 
大塚)学校が再開して日常が戻るので、多くの子どもたちは自然に心が回復すると思います。ただ、まだ発災から1ヶ月なので、不眠、イライラなどのトラウマ反応が出る子どももいます。今の時期は、子どもたちの自然な回復力を高めるために安全確保が大切。今後、地震の恐怖を感じる子どもたちは減っていきますが、住まいの変化など二次的な要因でストレスを感じる子どもたちが増えるので十分な配慮が必要です。
 
西村)避難所から仮設住宅に引っ越しをするなどの変化もあり、ストレスが出てくるのですね。「9月1日問題」と言われるように、9月は子どものストレスが高まる時期。ここに災害による避難生活が重なると、さらにストレスが高くなるのでは。
 
大塚)その可能性はあります。わたしのこれまでの研究で、2016年の熊本地震でストレスが高かった子どもは、2020年にコロナウイルスによるストレスも高い傾向にあったことがわかりました。災害ストレスは、他のストレス要因を高める可能性があります。学校が再開して、親に迷惑をかけないように頑張ろうと、過剰に適応して登校する児童生徒も見られます。
 
西村)「学校に行きたくない」と言ったら、無理に登校させない方が良いですか。
 
大塚)本人の意思に任せながら、できるところから寄り添っていくことが大切です。
 
西村)「今日はどうしたいの?」と聞いて、子どもに決めてもらうことが大切なのですね。
 
大塚)子どもたちの自己決定に寄り添うこと。できたり、できなかったりの繰り返しで回復します。右肩上がりには回復しないので、もう良くなったと思い込みすぎないように。
 
西村)子どもがストレスを感じていると、どんな症状が出るのでしょうか。
 
大塚)トラウマ反応です。10年前の学校再開時には、保護者から離れられない児童が出てきました。いわゆる「赤ちゃんがえり」です。頭痛、腹痛、眠りが浅いなどの症状がある子どももいました。
 
西村)未就学児だけではなく、小学生・中学生も同じような状況でしたか。
 
大塚)はい。トラウマ反応は、大人にも子どもにも出ます。
 
西村)トイレに1人で行くのを嫌がることもありますか。
 
大塚)そのような症状も多かったです。
 
西村)特に気をつけたい症状はありますか。
 
大塚)やけにしっかりしている子、全く弱音を吐かない子は、親に心配かけないように振舞っていることがあります。子どもによっては、ストレスが見えにくいこともあるので、頑張りすぎている可能性があります。

 
西村)頑張りすぎている子どもたちやストレスを感じている子どもに家族や周りの大人は、どのように接したら良いのでしょうか。
 
大塚)普通に接して、子どもたちが自分たちでやろうとしていることをしっかり認めて寄り添うことが大切。「もう元気になったから大丈夫」と思い込まないこと。ふとしたきっかけでフラッシュバックを起こすことあります。
 
西村)どんな言葉で声をかけたら良いですか。
 
大塚)特に言葉かけるわけではなく、子どもたちの日常に寄り添うことです。例えば子どもが夜寝られないなら、一緒に寝てあげる、背中をさすってあげる。そのような日常的な親子の関わりが子どもの安心感を高めてストレス反応を小さくします。そこに注意すれば、取り立てて言葉をかける必要はないと思います。
 
西村)睡眠が大事ですか。
 
大塚)睡眠が大きなポイントになると思います。眠れなくなると昼夜逆転、ゲーム依存などになることも。睡眠や食事には気をつけてください。
 
西村)手をつなぐ、ハグをするのも効果的ですか。
 
大塚)夜になると不安になる子どもが多いので、一緒に手をつないで寝てあげる。背中に手を当ててあげるだけでも子どもの安心感が促進され、自己回復力が進みます。
 
西村)避難所で暮らす人は、ゆっくり眠ることも難しいと思うのですが、何かアドバイスはありますか。
 
大塚)10年前は、朝からラジオ体操をして起床時間を整えたり、うまく寝られない子どもたちは、眠りのためのリラックス法を試したりしていました。布団に入った状態で、手や足、お尻など体にギュッと力を入れて、その後ふわっと力を抜くんです。筋肉に意図的に力を入れたり抜いたりすることで、心身をリラックスさせる方法です。
 
西村)ふわっと力を抜くんですね。息は吐きながらの方がいいですか。
 
大塚)そうですね。顔も一緒に力を入れてください。ポイントは、ふわっと力を抜くこと。
 
西村)今、「ふわっ」と口で言っただけでも、ちょっとリラックスしました!
 
大塚)先日、学校再開前に学校の先生たちにこのリラックス法を体験してもらったんです。その後、学校でリラックス法を習った子どもの保護者から感謝の連絡が来ました。子どもたちの自己回復力を高める一つの方法として、ぜひ活用してください。
 
西村)これは大人でも活用できますね。それでも良くならない場合はどうしたら良いでしょうか。
 
大塚)その場合は、積極的にスクールカウンセラーに相談して、必要ならお医者さんにつないで、段階的に対応していく必要があると思います。
 
西村)まずは担任の先生に伝えたら良いですか。
 
大塚)はい。心配事は学校に担任の先生に相談するのが良いと思います。
 
西村)どのぐらいの間、子どものようすに注意が必要ですか。
 
大塚)10年前の熊本地震では、発災後1ヶ月で心のケアが必要な子どもは4277人。その後11月には1247人まで下がったのですが、実はその後また増えて2000人ぐらいで高止まりしたんです。
 
西村)なぜでしょうか。
 
大塚)2次被害がでてきたからです。転居や親の仕事や家族構成が変わることもあり、過剰に適応してきた子どもたちが頑張れなくなります。気持ちが落ちて、2次的なストレスで学校に来られなくなる子どももいました。
 
西村)その後どうなったのですか。
 
大塚)地震から3年後、2019年10月ぐらいから徐々に減ってきました。当時わたしは、小学校の校長をしていたのですが、フラッシュバックを起こす児童は、低学年や特別支援学級に多かったという実感があります。個人差があるということも理解してほしいです。
 
西村)学校が始まると、「友達の家では、水が出たけど自分の家はまだ出てない」など差を感じて、ストレスが出てくることもあるかもしれませんね。今後気をつけておくことはありますか。
 
大塚)3年経ってもフラッシュバックを起こすこともあります。追悼行事や節目の報道で映像を見ることで、思い出してしまう「アニバーサリー反応」が見られることがあります。時間が経ったからといって、治ったと思わないようにしてください。時間の経過とともに長期的な配慮が必要なので、しっかり子どもたちに寄り添ってほしいです。
 
西村)大塚さん、どうもありがとうございました