オンライン:防災アナウンサー 奥村奈津美さん
西村)きょうは、熊本地震の被災地で、入浴支援を行っている防災アナウンサーの奥村奈津美さんとオンラインでつながっています。
奥村)よろしくお願いいたします。
西村)奥村さんはどのような入浴支援をしているのですか。
奥村)わたしが災害対応コーディネーターを務めている危機管理教育研究所では、地震発災3日後の7月31日から、要配慮者にお風呂を届ける「テルマエ・クマモト」プロジェクトを行っています。
西村)「テルマエ・クマモト」というネーミングが気になりました。
奥村)映画化された人気漫画「テルマエ・ロマエ」からヒントをもらいました。テルマエ・ロマエは、"ローマのお風呂"という意味。それを捩って「テルマエ・クマモト」=熊本のお風呂。「テルマエ・ロマエ」の作者ヤマザキマリさんから、応援のイラストもいただきました。"入浴は命の栄養です"というキャッチコピーもヤマザキさんが考えてくれました。
西村)要配慮者とはどんな人のことですか。
奥村)高齢者や体が不自由な人、障がいがある人、乳幼児など、災害時も厳しい状況に置かれる人のことです。
西村)要配慮者への入浴支援はどこでどのように行ったのですか。
奥村)今回は、被害の大きかった氷川町、八代市を中心に、高齢者の福祉施設や福祉避難所で入浴支援を実施しています。普段、在宅介護者に入浴サービスを届けている訪問入浴車の事業者と一緒に、自治体、DMAT、福祉施設と連携して行っています。訪問入浴車の中には、組み立て式の浴槽、水をためるタンク、ボイラーがセットになっています。なので、どんな場所でもお風呂に入ってもらうことができます。
西村)これまでどれぐらいの期間、何人ぐらいに入浴支援を行いましたか。
奥村)これまで50日ほど実施。要配慮者のべ1200人にお風呂入ってもらいました。
西村)入浴支援を受けた人のインタビューをお聞きください。
音声・介護スタッフ)久しぶりにお風呂入ってどうでしたか。
音声・利用者)気持ちよかった~!極楽!
音声・介護スタッフ)綺麗になった?
音声・利用者)気持ちよかった~。うれしかった~。
音声・奥村)お風呂は好きですか。
音声・利用者)大好きよ~!
音声・奥村)ずっと入れなくて辛かったですね。
音声・利用者)よかった~!
西村)「良かった~」「極楽」と言っていたおばあちゃんの気持ちが伝わってきました。
奥村)要配慮者の中には、言葉が話せない人もいますが、表情が明るくなって、みなさん笑顔を見せてくれました。職員も「こんな表情は見たことがない」と記念撮影するほど。発災直後から活動していますが、全ての施設に一気にお風呂を届けることはできないので、40℃近い暑さの中で1~2週間、お風呂に入れない状況が続いていた施設もありました。頭の痒さを訴える人、あせもができて体をかきむしる人、3回ぐらいシャンプーをしないと泡立たない人もいました。
西村)それだけ頭がベタベタになっていたのですね。
奥村)この暑さの中、お風呂に入れないのは普通の人でも気持ち悪いと思います。要配慮者にとっては、健康に直結する問題だと感じました。
西村)お風呂に入ると、体調が良くなることもありますか。
奥村)寝たきりの人は、床ずれなど皮膚の疾患があります。入浴は床ずれの予防になることも。血流が良くなり、認知機能の維持にも効果的。衛生環境を保つことができるので感染症予防、全身運動による筋肉の緊張の緩和、ハビリ効果などもあります。
西村)お風呂に入る前と入った後、どんなお話をしましたか。
奥村)お風呂は1回入ったら終わりではなく、定期的に入る必要があるので、わたしたちは、福祉施設に毎週のようにお邪魔しています。ある福祉避難所では、わたしたちのお風呂支援が「1週間の楽しみ」という人が何人もいて。「避難所では何もやることがなくて気が狂いそう」という男性は、「入浴支援を受けると心も体もほっとして、ゆっくり休める」と言ってくれました。お風呂の時間が癒しにつながっていると感じました。
西村)施設のスタッフはどのような話をしていましたか。
奥村)配管やボイラーが修復され、お風呂に入れる状況になると、施設からは「この1ヶ月半、入所者の命をつなげたのは、みなさんのおかげです」という言葉がありました。施設のスタッフも家が壊れるなど被災している中で、何とか入所者の命をつなごうと懸命にサポートしてくれています。入所者から「頭がかゆい」「お風呂に入りたい」という声があっても叶えることができなかった。でも、「テルマエ・クマモト」の支援を受けることができて「本当に助かった」と言ってくれました。
西村)地震発生後、氷川町と八代市は断水していました。入浴に使うお湯はどうしたのですか。
奥村)訪問入浴車のタンクの中には250Lの水を溜めることができます。シャワー浴など、水を節水して使えばある程度の人数がお風呂に入ることができます。多くの人に入ってもらうためにさまざまな工夫をしています。たまたま出会った農家さんが仮設のプールを設置してくれて、3000Lぐらいの水をポンプで吸い上げながら入浴支援したことも。並走する給水車から給水しながら入浴支援をしたこともあります。農家さんは、直後から自身も被災しているにも関わらず、「地域にできることは何かないか」と給水活動をしていました。「地域の方々の入浴の支援ができて、ありがたかった」と言っていました。
西村)みなさんの温かな気持ちで支えられているのですね。
奥村)わたしたちだけでは何もできません。訪問入浴の事業者や全国の看護師、介護の経験がある人などみなさんのお力添え、福祉施設のスタッフのサポートもいただきながら、多くの人にお風呂を届けることができています。
西村)なぜ要配慮者に向けた入浴支援を始めたのでしょうか。
奥村)実はこのプロジェクトは、初めてではなく、2年前の能登半島地震でも実施していました。そのときは「テルマエ・ノト」という名前で。そのときも断水が続く中で、多くの要配慮者がお風呂に入れていませんでした。自衛隊のお風呂が届いているという報道があったかもしれませんが、自衛隊のお風呂は手すりがない、浴槽が深いことがあり、寝たきりや体が不自由な人は入ることができません。入浴できない状況の中、施設スタッフに話を聞くと、床ずれなどの皮膚疾患が悪化している人、顔が真っ白になって、血流が巡ってない人がいると。そのときは3ヶ月間、わたしたちが入浴支援を行いました。
西村)今回、熊本で活動を続けていますが、振り返ってみてどうですか。
奥村)水問題が大きいです。水道管の復旧は完了していますが、家の中や福祉施設の配管、入浴設備の復旧は、事業者の数も少なく、なかなか進みません。八代など、水道水が通っていない地域も広く、そのような地域は井戸水で生活しています。今回は井戸が被災してしまったことで、水が枯れて、砂が混じり、井戸自体が使えなくなっています。新たに井戸を掘らないと復旧できない福祉施設もあります。すぐには復旧できないので、長期にわたって断水が続く状況です。
西村)「テルマエ・クマモト」のプロジェクトはいつまで続けますか。
奥村)支援している福祉施設が入浴できる状況になるまで支援を続けたいです。9月末までは続けることが決まっています。10月以降も復旧が難しいと思うので、できる限り、続けていきたいです。
西村)施設に通っていて、お風呂に入った利用者の変化は感じられましたか。
奥村)だんだん顔なじみになってくるので、前回の会話を受けて話します。福祉施設には、会話が難しい人も多いですが、福祉避難所には、介護度が低い方もいて、会話ができます。ある福祉避難所の男性は、回を重ねるごとに自宅の状況や今の気持ちを打ち明けてくれるように。印象的だったのが、「うまかっちゃん(熊本の即席袋麺)が食べたい」という言葉。「避難所だと調理できないので、家に帰れたら一番に食べたい」と話してくれて。避難所だと自分の気持ちを抑えて過ごすことが多いと思いますが、心の中の言葉を打ち明けてくれたんです。そのような会話が少しでも希望や前向きな気持ちにつながったら良いなと思います。
西村)今回、奥村さんが改めて感じた必要な備えは?
奥村)電気・ガス・水道・通信などが使えなくなってしまうので、備えが大事だと感じました。能登のときもそうでしたが、今回も水問題が長期にわたって続いています。発災直後は、支援物資は拠点までは届いていても、その先に配る「ラストワンマイル」の問題が大きく立ちはだかりました。各家庭で最低でも1週間分ぐらいは備蓄しておくことが大事だと改めて感じました。
西村)1週間分の備蓄をしっかりとするということですね。
奥村)余震も続く中、暑さの中、屋外で並ぶなど、厳しい状態になります。直後の1週間だけでも備蓄があると、心の安心感も違うと思います。
西村)水を運ぶのも並ぶのも大変ですよね。
奥村)外に出るのが危険な暑さが続いていましたので、長時間並ぶのは過酷ですし、命の危険もあります。車で遠くまで買いに行くとガソリンの問題もあります。発災直後はガソリンも手に入らないので、1週間分程度は、家に備蓄しておくと良いと思います。
西村)リスナーにぜひこれだけは伝えたいということありますでしょうか?
奥村)被災した地域では、不便な生活を送っている人もまだまだ多いです。入浴は、1回入ったら終わりではなく、定期的に入ることが必要。わたしたちは、ボランティアで活動しているので、みなさまからの温かい寄付によって支援が続けられています。被災地に何かエールを送りたい人は、無理のない範囲でお力添えいただけたら幸いです。
西村)「テルマエ・クマモト」プロジェクト特設サイト
https://www.kikyoken.or.jp/thermae-kumamoto/index.html
リスナーのみなさん、この機会にぜひご覧ください。奥村さんお忙しい中、どうもありがとうございました。
