ゲスト:番組元キャスター 千葉猛さん
西村)大きな災害で被災したマンションの建て替えなどに関する法律の規定が今年4月から変わりました。
きょうは、マンション管理士で番組の元キャスター、千葉猛さんに聞きます。
千葉)よろしくお願いします。お久しぶりです!
西村)お久しぶりです。千葉さんがマンション管理士の資格を持っているということにびっくりしました!
千葉)本当に持っているんです。これがマンション管理士証です。マンション管理士という資格は、国家試験に合格して、専門的知識でマンションの管理に関して住んでいる人々の相談に乗り、助けることを仕事とする専門家です。
西村)きょうは、いろいろとお話を聞いていきたいと思います。法律の話ということですが、どんな法律がどう変わったのですか。
千葉)「被災マンション法」という法律です。正式には「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」。短くして「被災マンション法」と呼ばれています。
西村)どんな法律ですか。
千葉)大きな災害で分譲マンションが被害を受けた場合の建て替えの手続きなどについて決めた法律。分譲マンションは、建物の持ち主が1人だけではないので、このような大きな決定をするときは、住む人みんなで話し合いで決めるのが原則。壊れたマンションをどうしていくのか、多数決を取りやすく、決めやすく改正しました。きょうのキーワードは「分譲マンションは自分1人の思い通りにはならない」です。これをまず頭に入れて聞いてください。
西村)被災して壊れてしまったマンションは、その後どんな流れになるのですか。
千葉)壊れ方にもよりますが、全て取り壊して建て直す「建て替え」や建物を修理して住み続ける「復旧」があります。壊れた建物はそのままにしておくと廃墟になるので、早くどうするか決めないといけない。なにより、住む場所がなくなったら、何とかしないと暮らせませんよね。
西村)「被災マンション法」は具体的に何が変わったのですか。
千葉)これまでは法律上、建て替えを決める場合は、区分所有者(部屋の持ち主)の人数と議決権の5分の4以上の賛成が必要でした。それを3分の2以上の賛成に減らしたんです。わかりやすくすると、部屋の持ち主が100人いたら、そのうちの80人以上が賛成しなければ決められなかったのを、67人以上に減らした。実際は「持ち分割合」があるので、このような数字にはならないのですが。
西村)「持ち分割合」とは、部屋が広い人の方が議決権があるということですか。
千葉)はい。人数と別の要素が絡んできます。
西村)数の話に戻ると、5分の4が3分の2に変わったのは、大きなことですか。少しか減っていない印象です。
千葉)実際の決議では、大きな要素になります。意見をまとめるのは大変ですから。「被災マンション法」ができたのは、阪神・淡路大震災がきっかけ。兵庫県のデータでは、172の分譲マンションが全壊・半壊の被害を受けたとのことです。10戸以上のマンションの数値なのですが、小さいところも入れればもっと多いと思います。これだけの分譲マンションが話し合ってマンションの今後を決めなくてはならなかった。マンションは大きなお金が動く財産です。みなさんが住んでいるマンションでは、いろんな決定でもめていませんか。
西村)いろんな人がいますしね。しかも災害が起きた後でしょう。自分の住む場所を早く元に戻したい気持ちもある中でもめると長引きますね。
千葉)例えば、神戸市灘区のあるマンションでは、建て替えをするか、補修をするかでもめました。最終的には建て替えされたのですが、新しいマンションに住めるまでに13年かかりました。2年で5分の4を上回る賛成で建て替え決議が通ったのですが、強い反対もあり、その後、決議の有効性を巡って裁判に。震災発生から最高裁判所で建て替えの決議が確定するまでに8年、再建工事が終わるまでにさらに5年かかりました。詳しく経緯を話すと、最初はマンションの管理会社から「補修できます。費用は2~3割で済みます」と言われていたんです。
西村)2~3割と聞いたら、補修が良いと思いますよね。
千葉)仮に建て替えの費用を1戸当たり1500万円と見るなら、補修なら300万円ぐらい。しかし、実際に建設会社に工事費を出してもらったら、1戸当たり800万円という見積りが出てきたんです。
西村)話が違うじゃないですか。
千葉)それで調査をしてもらったら、1週間後に500万円という見積もりが出てきた。あまりに短期間で何百万円も変わるので、住人は、本当は補修にいくらかかるのか、補修で本当に大丈夫なのか、何を信じていいのかわからなくなったんです。
西村)それからどうなったのですか。
千葉)そんなとき、神戸市が派遣した専門家は建て替えをすすめてきました。この当時は、建て替えならいろんな支援策があったんです。建物の解体は公費でできるし、災害復興融資でお金を借りることができる。建て替えすれば、建物も新しく綺麗に丈夫になる。建て替えに伴って部屋数を増やして売れば、いくらか建設費も回収できる。その状況をふまえると賛成派が増えていきました。このマンションの場合、潰れて住めない状況ではなく、それぞれの家の壊れ方に差があったのも意見が分かれた理由。意見をまとめていくのは難しい状況でした。
西村)いろんなバトルがあったと思います。住んでいる人のコミュニティが崩れていくのが心配です。
千葉)このマンションは戸数が178戸あったのですが、最終的にマンションに戻る権利を持ち続けたのは36戸。結果的にみんなバラバラになってしまいました。
西村)建て替えに反対していた人たちはどうしたんですか。
千葉)建て替えに反対していた人たちには、建て替えの主体となる建替組合が、「売渡請求」をし、時価で売り渡していくことに。壊れたマンションなので、高い値段では売れません。建て替えに賛成した人たちも、まとまっていたわけではなく、13年間「いつ住めるのわからない」「いつまで待つのか」という状況。仮住まいの家賃に加え、壊れたマンションのローンが残っていた場合は、二重ローンになってしまいます。そういう状況で限界となり、わずかな金額で売却した例や、仮住まい先で亡くなってしまう高齢者も。「被災したマンションの権利とそれに伴う住宅ローン」を引き継ぐことを恐れて、相続人が相続放棄してしまったケースもあったそうです。兵庫県の調査では、被災した172件のうち、2003年の時点で105件が建て替えを選んでいます。その一方で、52件は補修を選んでいます。難しい中、決断をしなければなりませんでした。
西村)合意をまとめるのはかなり難しいですね。
千葉)一方で、阪神・淡路大震災の被災地でも早く方針がまとまって、震災発生から2年で建て替えまで終わった分譲マンションもあるそう。地震が起きた時点で、既に築40年近く経っていて、以前から建て替えが話題に出ていたマンションでした。建て替えが視野に入っていて、日ごろから住民がマンションの今後についてコミュニケーションをとっていました。戸数が30戸ほどで、比較的意見がまとまりやすかったのがスムーズに建て替えが行われた理由です。
西村)前々から建て替えしようと考えていたんですね。
千葉)古いマンションで地震で壊れる危険も大きかったわけです。命に関わることなので、なによりも地震で被害を受けないマンションにしておくことが一番大切。お住まいのマンションの耐震性を高めておいてほしいです。日頃から話し合って対策をしておきましょう。
西村)どうしたら良いですか。
千葉)今回の法改正では「古くなって危ないマンションを放置しない」ための仕組みも強められています。この4月から、被災して壊れたマンションでなくても、古くなったマンションの建て替えについて決議をする場合は、緩和する理由に該当した場合、多数決の割合が原則5分の4から、4分の3に緩められました。この緩和の理由は、「地震に対する安全性不適合」「火災に対する安全性不適合」などがあり、建て替え決議がしやすくなったんです。たくさんのお金がかかる建て替えがベストではないです。一番大切なことは、「分譲マンションは自分1人の思い通りにはならない」ということ。大きなことを決めるには多数決が必要。みんなの協力が必要なんです。だから普段からマンションの管理に関心を持ってください。この番組をきっかけに、大きな災害への備えと対策について、普段からマンション内で話し合っておいてほしいと思います。
西村)マンション管理士の千葉猛さんにお話を聞きました。千葉さん、どうもありがとうございました。
